混浴温泉世界、別府(1) 続き
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楠銀天街 |
【 2日目 】
別府へは一人で来たが、すでに友人が別府に滞在しており、もう一人の友人も夕方には到着する。
この人達を友人と呼んでいいものか、微々たる躊躇はあるが、とりあえず「友人」としておく。
今日も朝から一人行動がはじまる。
ゲストハウスの自転車が無料で借りられるらしいので、そのサービスに甘んじることにした。
真っ赤なママチャリ。
この日、僕の冒険に付き合ってくれるママチャリである。
手始めに、昨日と同じ近所のパン屋さんでパンを2つほど買い、昨日と同じ公園で朝食タイム。
熟考の末選んだ、よもぎあんパンが大当たりだった。
昨日と同じ、この公園は「海門寺公園」というらしい。公園の隣には「海門寺温泉」という、別府では比較的きれいな銭湯がある。
よもぎあんパンのよもぎの香りを鼻から味わっていると、小麦の方の匂いを嗅ぎつけたハトがわんさか寄ってきた。
その図々しい嗅覚にスゲーナと感心していると、のそのそと一匹の猫が近付いてきて、ハトを追いやってしまった。
こ、こいつ、ハトから俺を守ってくれたのか……
とか感心しつつ、猫とともに朝食を終える。
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海門寺公園 |
よし、鉄輪にでも行ってみるか!
鉄輪には昨日も行ったが、他に行く場所も思いつかないので仕方ない。
自転車で行くという過程自体が、ふだん自転車乗りの自分には大きな意味をもつのだ、ということにした。
鉄輪は別府市街地からはそれなりに距離があり、結構な坂を上らなければ、たどり着けない。
亀の井バスに揺られていれば楽チン20分ほどで着くが、ママチャリを漕ぐのは苦行だった。
天気も良かったので、暑い。
背中の熱を逃がすためバックパックを下ろし、トレンチコートを脱ぎ、じわじわと汗をかきながら、せっせと坂を上った。
しかし天気が良いので、その苦行がむしろ気持ちよかった。
晴れていればそれでいいと思いがちなのは、人間の自然な思考か、瀬戸内生まれの性か。
ようやく鉄輪に着いたが特にすることもないので、観光案内所に駐輪して、なんとなく海地獄へ。
3年前に来た時は、律儀に全ての地獄を拝んだが、今回は1つでいいや、と。
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海地獄 |
中で親子連れの写真を撮ってあげた。喜ばれた。いい気分。
かぼすスカッシュを買って飲む。いい酸味だ。
足湯につかる。熱いので、つかった部分が赤くなる。なんかおもしろい。
海地獄を出て、近くのお店で1個50円の蒸したまごをいただきながら、次の行動を考える。
旅手帖beppuをパラパラめくりながら、2つめの蒸したまごの殻にヒビをいれる。
(この蒸したまごが無性にうまい。)
どうやら「岡本屋売店」の蒸しプリンが名物らしい。場所は明礬温泉。地図によれば鉄輪のさらに上、地図の上の方のはしっこに書いてある。
遠いのか……?
また悩みながら、ママチャリが待っている場所へ向かう。別府に戻ろうかなあ。
すると道の脇に停めてあったタクシーの運転手さんに話しかけられた。
「別府は明礬温泉が穴場っちゃね、岡本屋のプリン食べんと、それから、も少し行ったら展望台もあるんよ」
「自転車で来たんか!?そりゃ~ちょっとキツイわなあ」
みたいなことを言われ、ああ、やっぱプリンは無理か(ヽ´ω`)と諦める。
観光案内所に戻り、一応、そこのおばちゃんに自転車で明礬温泉に行けるか食い下がって聞いてみる。
「歩いたら30分くらいかなあ」
「お兄さん若いから行けるんじゃない?」
話を聞けば、あれあれ?行けるんじゃね?……行こう。
持ち前の楽観視に任せて鉄輪を出る、ママチャリを漕ぐ、上る。
リハビリセンター横の咲いてない桜並木を通り過ぎ
山の間に架かる、ウルトラマンが走り高飛びでも出来そうなコンクリートの橋の下を通り過ぎ
だんだん人気がなくなるけれど車は通る、曲がりくねった坂道をひたすら上る。
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別府明礬橋 |
「明礬」という単語がちらほら見えてきた。
キツイ坂をぐいんと上ると、そこに「岡本屋売店」があった。
一度諦めた場所に辿りつけた感動はひとしおだ。
早速、地獄蒸しプリンを目当てに中に入る。
時間は昼過ぎ、そういえば昼食もとっていなかった。
メニューに「蒸し温玉ごはん」というのがあったので、プリンとともに注文。
平日の昼過ぎであっても、店内はそこそこ人が入っていた。
日が差すカウンター席で温玉ごはんをいただく。うまい。
席においてある地元産のかぼす果汁をかけてみた。うまうまい。
そして、蒸しプリンもぺろり。普通のプリンと何が違うのか、自分にはわからなかった。
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地獄蒸しプリン |
岡本屋売店という目的は果たしたが、ここまで来たんだから明礬温泉を経て、展望台まで行こう。
ママチャリにまたいで、また上る。
白濁湯のイメージがある明礬温泉には入らず。
途中、「湯の花」という明礬の入浴剤をつくる、伝統的な藁葺き屋根の施設なんか見たりした。
そしてママチャリは上る上る。
おそらく時速10キロも出ていなかったんじゃないか。ひたすら重力と闘いながら坂を上った。
ようやく上り坂が終わると、ずいぶん開けた土地が。入り口らしき所に警備員が2人立っている。
どうやら自衛隊の演習場らしい。ふーん。
道を挟んで反対側、もうちょっと行った所に展望台の入り口があった。
正確に言うと、展望台、テレビ塔、霊園の入口だ。
自転車にとっては窮屈な車道から開放されて、意気揚々と展望台まで車輪を滑らせた。
着いた。
目前に広がる別府湾。
港にさんふらわあが停まっている。小っさ。
鉄輪からは湯けむりが幾本も立ち昇っている。
手前の山の中にはAPU(立命館アジア太平洋大学)がある。
タクシーのおっさんは、ここから四国も見えると言っていた。
見える、と自分に言い聞かせれば、水平線上に見える、気がした。
展望台には他にも何人か人はいたが、自動エンジンのついていない乗り物は、自分の真っ赤なママチャリだけだった。
景色にも飽きたので、山を下ることにした。
景色ではなく、今まで山を登ってきた自分の頑張りに別れを告げて、車輪を転がす。
帰り道はあっという間だった。
ものすごいスピードで下り坂を滑り降りる。車道を我が物にして、別府の風を切り裂いていった。
およそ5分もかからず鉄輪に着いてしまった。
行きにかいた汗が帰りで冷えてしまったので、風呂を探そうと観光案内所へ。
観光案内所のおばちゃんが僕を見つけるなり
「行ってきたの!?」 「ほんとに!?」 と言うので、展望台まで行ってきましたと言うと
「きゃー!」 「すごーいですねー!」 と
おばちゃん相手に英雄のような扱いを受けて、それはそれで気分がよかった。
結局、おばちゃんに教えてもらった幾多の銭湯の中から、「渋の湯」という銭湯を選んだ。
入ると、脱衣所の上の窓が開いていて、ちょっと頑張れば外から丸見えである。
(なんとも別府らしい……)
体を洗い、湯に浸かる。ふええ~
もう一人いたおじさんと、野球の話、京都の話、別府の話なんかをして一緒に銭湯を出た。
別府の地で、裸で、湯に浸かっていると、見知らぬ人でも普通に話せてしまうから不思議だ。
友人2人が別府駅で合流したらしいので、ほかほかの身体でママチャリに乗って鉄輪を去る。
鉄輪から別府までの道中は住宅街を通る。
夕暮れの中、学校帰りの子供や風呂桶を持った親子なんかとすれ違う。
濃厚な別府市街地とはまた違った光景である。
こうして自転車で別府市内を往復すると、別府の街のコンパクトさを体感する。
ぼんやり自転車を漕いでいると、別府に着いた。友人は「platform02」という場所にいるとのこと。
platform02は、明日から作品の展示が始まる場所だ。
ママチャリを宿に返して、夕暮れの商店街の中を急いで歩く。
platform02に着いた。中に入ると見知った顔が幾人かと、見知らぬ顔が幾人か。
奥にいた創平さんは呑気な顔で「やあ、こんな所で会うとはね」なんて言っている。
その後、「select beppu」の店長、園さん主導のもと、友人たちと共に市街地をうろうろ
そして、斯界の人々が日本一美味しい韓国料理屋と口にする「高麗房」という韓国料理屋へ。
うまい。とくに蒸し豚は絶品だ。
二軒目は、「スナック優子」へ
前回の「混浴温泉世界」でインリン・オブ・ジョイトイが作品を出した建物が、今はバーになっている。もともともバーらしいが。(もっと遡ると、ヤり部屋だったらしいが)
三軒目に、ワインバーへ行った後、宿へ。
・・・
2日目、長い1日が終わった。